やまぐち幕末ISHIN祭

スペシャルインタビュー vol.2

平成27(2015)年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』。人気と実力を兼ね備えたキャストがズラリと揃い、注目が高まっています。大河ドラマ「花燃ゆ」制作統括 土屋勝裕(つちや かつひろ)さんにお話をうかがいました。

――― 『花燃ゆ』の主人公は、井上真央(いのうえ まお)さん演じる吉田松陰の妹・文(ふみ)。文さんを主人公に選ばれたのはどうしてだったんですか?

土屋プロデューサー:実は、僕は以前から幕末の長州を舞台にした大河ドラマができないかと、ずっとリサーチをしていたんです。でも、幕末の長州の歴史ってすごく難しい。一方で『篤姫』のように女性を主役にした大河ドラマなら、歴史が苦手な方でも気軽に見てもらえる。それに女性の皆さんにもっと見てほしいと思っていて、それなら女性が主役の方が自分の気持ちを重ねて見てくださるんじゃないか。そう考え、主人公になる女性を探す中で、劇的な人生を送った文さんのことを知ったんです。

――― 松陰の妹で久坂玄瑞(くさか げんずい)と結婚し、久坂の死後、亡き姉・寿(ひさ)の夫・楫取素彦(かとり もとひこ)と再婚…。確かに劇的な人生ですね!

文さんは楫取と結婚する前に毛利家の女中になって、いわば「大奥」のようなところに入り、嗣子・毛利元昭の守り役にもなっているんです。それに、文さんは楫取と再婚するとき、「過去は全て捨てて再出発するけれど、これだけは捨てられない」と言ったものがあり、それがずっと大切にしていた久坂からの手紙だったんです。それを見た楫取は涙を流し、巻物に仕立てて「涙袖帖(るいしゅうちょう)」と名付けて家宝にした…。その涙袖帖は今も楫取家にあり、そのことが書かれた昔の本を古本屋で見つけ、読んでみたら、涙なくしては読めないドラマだったんです。しかも、文さんには兄として松陰がいる。久坂や楫取との出会いがある。いろいろな出来事を乗り越え、明治へ…。これは大河になる。大河にしたい。これまでと違った女性の目線で幕末の長州を描けるんじゃないか、と思ったんです。

――― 文さんって知られていない人ですね?それについては?

土屋プロデューサー:松陰先生の思想に「草莽崛起(そうもうくっき)」というのがありますよね。在野にいる名もなき人々が立ち上がることによって変わっていくんだ、と。そういう思想があるのに名が残った人ばかりを描いていいのかという思いもあったんです。有名な人の偉人伝をやるだけが大河ドラマじゃない。新しいチャレンジとして、知られていない女性が主人公となってもいいんじゃないか。大河ドラマの可能性を広げたい。そう思ったんです。

――― とはいえ、文さんの人生には分からない部分も多いですね?

土屋プロデューサー:ええ。だからこそ、自由に描けて面白いんです。大河ドラマは史実をベースにして創作する「フィクション(虚構の物語)」です。ドラマで楽しみながら、そこから、じゃあ、本当の松陰は?本当の久坂玄瑞はどういう人だったんだろう?と興味を持っていただき、歴史学の方に入っていってもらえたら…と。とにかく楽しんでいただきたい。文さんは有名な人ではないけれど、自由にドラマをつくれる、ということで言うと、ぴったりの主人公なんです。

―――「イケメン大河」ということでも注目が高まっています。もともと長州の志士って個性豊かなキャラクターが多いと思うんですが?

土屋プロデューサー:本当にそうです!キャラクターが濃すぎます(笑)。でも、男たちって、自分たちのポジションを見つけようとするもので、先日、松下村塾で塾生たちが全員集合するシーンを撮ったんです。すると、彼がこういう芝居をするんなら俺はこうしよう…と、それぞれが探り合っていて(笑)。東出昌大(ひがしで まさひろ)さんの熱い久坂に、要潤(かなめ じゅん)さんのクールな入江九一(いりえ くいち)。個性派揃いで面白かったですよ!

――― 松陰を伊勢谷友介(いせや ゆうすけ)さんに、と思われたのは?

カッコよくて頭が良く、なかなか笑えない高級な冗談を言うユーモアもあった松陰。伊勢谷さんならカッコイイ松陰先生になる、と思いました。伊勢谷さんはもともと松陰先生が大好きみたいで、撮影の合間にエキストラの若い役者さんたちに松陰のことを話していて本当に先生みたいなんです。現場、楽しくやっていますよ!

――― 楫取を大沢(おおさわ)たかおさんに、と思われたのは?

土屋プロデューサー:大沢さんには「誠実」というイメージがあり、楫取も「まっすぐでブレない熱いヤツ」というイメージなんです。長州の志士は熱くて過激な行動に走っちゃうタイプが多い。でも、彼らがそんなことをしても、ちゃんとフォローしてやる人間がいた。だからこそ、長州は力を発揮できたんじゃないか。実際、スーパースターより、彼らを支えて頑張った人たちの方が多かったはずだし、その一人が楫取だと思うんです。楫取は有名ではないけれど、薩長同盟の下地を作るとか着実に行動し、志士らをフォローし、支えていった人だった。

――― 確かに支える人の存在も大事ですね。

土屋プロデューサー:それに、今という時代は、ここにあるささやかな家族や生活を守りたい…というふうにみんなが思っている時代なんじゃないかと思うんです。松陰も外国の脅威が迫る中、日本を守りたかった。守るためにはどうするか。それが松下村塾の原点だった。松陰や文の家族も次々と大変なことが起こっていきます。松陰は松陰なり、文は文なりのやり方で大事なものを守ろうとした。今という時代を考え、そういう視点で幕末を描く大河ドラマを、と企画したんです。

――― ところで県内あちこち、リサーチに行かれたそうですね。印象に残ったのは?

土屋プロデューサー:防府の桑山の招魂場。松島剛蔵(まつしま ごうぞう)さんの碑があるんですが、少し傾いていまして。無念な思いで亡くなったから、こんなに傾いちゃったのかなあって。木の根が押し上げているんだろうと思うんですが…。防府は「七卿落ち」や「禁門の変」の前に来嶋又兵衛(きじま またべえ)や諸隊が結集した地、楫取や文の最期の地でもありますね。スゴイ!と思ったのは関門海峡。あの狭い海峡、あの至近距離で外国の軍艦とかと戦ったのか、と生々しい感じがしました。そしてもちろん萩。松陰先生の誕生地「団子岩」から見る風景、いいですね!あそこで握り飯食べながら松陰先生の子ども時代を思い浮かべてゆっくりしたいなあと。楫取と寿さんが隠遁した三隅にも行き、そこでは今も寿さんが始めたことを守って月2回法話が行われていると聞いて驚きました。

山口市周布町で行われた周布政之助没後150年慰霊祭にて土屋プロデューサー

――― 山口県を何度も訪れるうちに何か気付かれたことがありますか?

土屋プロデューサー:長州では幕末、若者があれだけ活躍できたのはなぜかと以前から思っていたんですが、若者たちを頑張らせる風土があるんじゃないかって思いましたね。そしてそれは今もあるんじゃないかな、と。村岡知事も若いし、保守的なだけじゃなく、若い人たちに何かやらせてみようという寛容な土壌というのか。防府の「幸せます」(※)は、高校生が発想し、いろいろな展開に広がっていったと聞きました。そういえば、久坂役の東出君は元々剣道をやる人で、先日、萩で剣道場に行ったそうです。すると大人が子どもを教えるのではなく、小学生は小学生同士、中学生は中学生同士で教え合っていて、しかもそれが全国レベルだと聞き、驚いたそうです。東出君は言っていましたよ。「教え合う風土があるんですかねえ」って。

――― 松陰が塾生らを競い合わせて長所を伸ばしていった松下村塾みたいですね!大河ドラマを通じて山口県の魅力の再発見ができそうです。県外の方もこれをきっかけにぜひ山口県に来ていただけるとうれしいです。花燃ゆ、楽しみにしています!!

※ 平成22(2010)年、山口県立防府商業高等学校(現・山口県立防府商工高等学校)が、山口県の方言「幸せます」に「幸せが増す」という意味も加えて、防府の地域ブランドとすることを防府商工会議所に提案。防府商工会議所では「幸せます」を商標登録し、地域活性化に役立てている。

土屋勝裕

日本放送協会制作局第2制作センター ドラマ番組部チーフ・プロデューサー
大河ドラマ「花燃ゆ」制作統括

昭和45年生まれ。平成6年にNHK入局。
連続テレビ小説「ひまわり」で初演出。大河ドラマ「利家とまつ」、連続テレビ小説「天花」、土曜ドラマ「氷壁」などで演出。特集ドラマ「楽園のつくりかた」で平成15年の文化庁芸術祭優秀賞を受賞。プロデュース作品に、特集ドラマ「真珠湾からの帰還」、「家で死ぬということ」、よる★ドラ「恋するハエ女」、土曜ドラマ「太陽の罠」ほか。

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