やまぐち幕末ISHIN祭

スペシャルインタビュー vol.6

平成27年(2015年)7月、明治日本の産業革命遺産がユネスコの世界文化遺産に登録されました。同遺産には山口県萩市内の5つの資産も含まれています。今回は一般財団法人産業遺産国民会議の代表理事として登録に尽力した八木重二郎(やぎ じゅうじろう)・公益財団法人防長倶楽部理事長にお話を伺いました。

――― まずは、世界文化遺産の登録、おめでとうございます。現在の率直な感想をお聞かせください。

八木さん:登録決定までにはいろいろと紆余曲折があり、順風満帆というわけではありませんでしたので、登録が決まって、ひとまずほっとしたというのが正直なところです。ただし、登録決定は決してゴールではありません。むしろやっとスタート地点に立つことができた状態といった方が正確でしょう。人類共通の宝物として世界遺産に認定された貴重な資産をいかに守り、適切なかたちで次世代に伝えていくべきか、これから本格的な取り組みを始めなくてはなりません。特に「明治日本の産業革命遺産」はシリアル・ノミネーションといって、関連性のある複数の資産を1つのものとしてまとめて推薦する手法で登録されたため、構成資産は23にも上り、山口だけでなく鹿児島や長崎、岩手、静岡など8つのエリア(※1)に点在しています。これらの資産を有する自治体等がいかに足並みを合わせて各資産を維持管理し、活用していくかが、これからの大きな課題だと思います。

――― 山口県にとっては初めての世界遺産誕生ということもあり、地元萩市を中心に観光客増加への期待も高まっています。世界遺産登録を観光の活性化にいかすには、どのような取り組みが必要でしょうか?

八木さん:世界遺産に登録されると、知名度が一気に上がるのは確かです。特に欧米では世界遺産を目当てに旅行する人も多く、世界遺産専門の旅行ガイドもたくさん揃っていますから、「YAMAGUCHI」や「HAGI」という地名も海外の皆さんにこれまで以上に知られるようになることでしょう。ただし、いくら世界遺産目当ての旅行といえども、世界遺産を見学するだけでは物足りないもの。世界遺産と併せて観るべき周辺の名所や体験型施設、ご当地グルメが楽しめる場所などを周遊するプランをいくつか用意し、各自の滞在時間や好み、年齢層に合わせて選べるようにしておくと、やまぐちの魅力をより深く知ってもらうことができるのではないでしょうか。

――― なるほど。県内全域を視野に入れれば、いろいろなストーリーがありますから、多彩なメニューができそうですね!

八木さん:山口県に限らずこれまで日本の観光政策はとかく自治体ごとに縦割りで行われがちでしたが、それでは魅力ある観光プランを作ることはできません。今こそ自治体の壁を取り払い、自治体同士が連携して「オールやまぐち」体制で、より魅力的な観光プランを豊富に揃え、つないでいくことが大切です。この「つなぐ」役割こそが、県の事業として重要なことだと思います。私もふるさとを離れて初めて気づいたのですが、自然や歴史、温泉や食材に恵まれた山口県は、まさに宝の山。これを活かさない手はありません。もちろん、山口県単体での取り組みだけでなく、もっと広域的な取り組みも必要になってくるでしょう。たとえばお隣の島根県や広島県、福岡県ともタッグを組むと、もっともっと面白いストーリーができるはずです。

――― 八木理事長は山口市のご出身とうかがいました。ふるさとにどのような想いをおもちですか?

八木さん:やまぐちは、私にとって最高の故郷です。社会に出てから、やまぐちで生まれ育ってよかったと思うことが何度もありました。地域社会がしっかり機能していて、常識ある落ち着いた暮らしが営まれている場所ですよね。私も小さなころ、周囲の大人から「嘘はつくな」「周囲の人との付き合いを大切にしなさい」と言われて育ちました。その教えが、社会に出て企業人としてシビアな世界で戦っていくとにときに、どれだけ私を助けてくれたかわかりません。
それともう1つ、やまぐちの素晴らしいところは、歴史が身近に息づいているところですね。特に幕末の志士は地元でも人気があって、私も子どもの頃に周囲の大人たちが、今「花燃ゆ」で活躍している志士達の名前を話しているのを聞いて育ち、自然に歴史に興味を持つようになりましたね。

――― 平成30年(2018年)に明治維新150年の節目の年を迎えるにあたって、山口県では平成26年度から「やまぐち幕末ISHIN祭」と銘打って「幕末維新」をテーマとした観光キャンペーンを展開しています。平成27年度までは主に大河ドラマ「花燃ゆ」を活用した取り組みを、平成28年度以降は、平成29年9月から12月に開催が決定したディスティネーションキャンペーン(※2)や、先日発足した広域観光プロジェクト「平成の薩長土肥連合(※3)」を活用した取り組みなどを行っていく予定です。

八木さん:幕末維新は歴史ファンには魅力のあるストーリーですから、明治維新150年は県の観光活性化にとって非常によいチャンスですね。大いに盛り上げていただきたいと思います。ただし、忘れてはならないのは、歴史にあまり興味がない層の方や、そもそも日本の歴史を知らない外国人観光客へのアプローチです。特にインバウンド消費(※4)の可能性は非常に大きいですから、歴史だけにこだわらず、豊かな自然や食、温泉の魅力なども積極的に海外に向けて発信して、外国人観光客の誘致にも力を入れていただきたいですね。

――― そうですね。外国人観光客の受け入れにあたっては、県もフリーWi-Fiや観光案内所などの環境整備を検討していますが、「おもてなし」として、その他にどのような取り組みが必要とお考えでしょうか。

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八木さん:もちろん標識や観光案内に英語や中国語の表記を併記するなど、基本的な整備は急ぐべきですが、最初からパーフェクトな態勢を整える必要はありません。そもそも、そんなことは無理ですよね。最初は多少の不備があってもいいのです。徐々に取り組みを充実させ、時間をかけて海外からのお客様の受け入れに県民が慣れていけばいいのではないでしょうか。先ほど申し上げた通り、やまぐちの人には「人との関係を大切にする」という誠実さがあります。その誠実さは、おもてなしの心となって、海外からのお客様にもきっと伝わることでしょう。自信をもって「おいでませ、山口へ」、そして「おいでませ、世界から山口へ!」と歓迎の気持ちを伝えようではありませんか。

※1 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県、山口県、岩手県、静岡県

※2 JRグループ6社と地元行政、観光事業者等が一体となって実施する広域的な観光キャンペーンのこと。県ではJRと連携し、観光客の受け入れ体制の強化を一層進めるとともに、「やまぐち幕末ISHIN祭」と連動し、山口県の知名度、イメージの向上を図り、全国からの宿泊観光客の誘致拡大につなげていくこととしている。

※3 2018年(平成30年)に迎える「明治維新150年」に向け、かつての「薩長土肥」、現在の鹿児島県(薩摩)、山口県(長州)、高知県(土佐)、佐賀県(肥前)が連携し各県の観光産業の育成・強化を図る広域観光プロジェクトのこと。2015年(平成27年)8月31日に4県知事による盟約締結式が都内で行われた。

※4 インバウンド消費・・・訪日外国人による消費のこと

八木 重二郎

公益財団法人防長倶楽部理事長・一般財団法人産業遺産国民会議代表理事

山口県山口市出身。平成23年から公益財団法人防長倶楽部理事。平成25年、一般財団法人産業遺産国民会議代表理事に就任。山口市出身者および山口市にゆかりのある方たちが集まって創られた会である、山口七夕会の会長も務める。

取材:相山 華子(あいやま はなこ)

相山華子

インタビューカンパニーmimi代表。1974年下関市生まれ。
慶応義塾大学環境情報学部卒業後、山口放送(日本テレビ系)に入社。報道部記者として山口県内各地を取材。同社退社後、拠点を東京に移し、フリーランスのライター・エディターとして活動。政治、ビジネスから食文化、伝統工芸まで幅広く取材。公益財団法人防長倶楽部で機関誌編集人も務める。東京都在住。。

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